以前、油圧ディスクブレーキについて良い商品であるがメンテナンスに高度な技術が必要と記載しました。今回はディスクブレーキメンテナンスで一番厄介と言われている「ディスクブレーキの音鳴り」について記載します。
耳に残る嫌な音です。信号待ちで止まると注目を浴びます。レースやライドで鳴くと白い目で見られます。想像以上に大きな音がします。概ねロータの掃除やパッドの交換で直ります。しかし、多くの場合再発します。中々抜け出せない不具合です。一方でこの不具合に遭わない人もいます。不思議な現象です。
この不具合の根本解決方法を求め沢山の方が調べていると思います。私もそんな一人です。今回はこの件について調査した情報を備忘録を兼ねて記載します。
なぜ自転車だけ鳴るの?
そもそもの疑問は、我が家には、車とオートバイとロードバイクがあります。1998年製のオートバイは前後ディクスブレーキです。車もガソリン100%の動力で回生ブレーキの無い純粋なディクスブレーキです。洗車は数カ月に一度程度。走行距離は1年間に5000km程度。その状態で20年乗り続けて車もオートバイも鳴きません。しかし、ロードバイクは頻繁に鳴きます。メンテしても直ぐに鳴きます。この理由と根本解決方法が知りたいのです。
自励振動
音鳴りの原因は、ディスクブレーキで自励振動(じれいしんどう)と言われています。発生メカニズムが難しい為、基本原理についてwikiさんの説明を引用します
自励振動を発生させる基本原理は以下の3つ
- 非振動的エネルギが与えられる場にあること
- 非振動エネルギを励振力に変える機構・特性を系が有していること
- 初期外乱が与えられること
これ、無理ゲー? 構造上の問題で素人が解決できる問題? 「励振力に変える機構・特性」ってなに?「初期外乱」ってなに?と思いながら調査を進めます。自励振動現象の他の事例
- 黒板とチョーク
- バイオリンの弦と弓
言われてみると黒板の嫌な音と似ています。しずかちゃん(ドラえもん)のバイオリンとも同じ音質です。
スティックスリップ現象
自励振動現象は、フラッター現象、スティックスリップ現象、ギャロッピング現象、シミー現象など名前がつけられたより細かい現象に分かれていきます。ディスクブレーキの音鳴りはスティックスリップ現象に分類されています。自励振動現象の中のスティックスリップ現象です。今度はこれを調べます。英語wikiさんより
接触している物体が互いに滑り合うことによって示される運動の一種。これらの物体の運動は通常、完全に滑らかではなく、むしろ不規則で、短時間の加速(スリップ)が停止(ストップ)によって中断されます。この運動は通常、摩擦と関連しており、滑り合っている物体を振動(ノイズ)させる
この現象は理解しやすい。ディクスブレーキに置き換えると
- バッドがロータに圧力を掛ける
- パッドとロータの間に摩擦が発生
- 一定の圧力で押され続けると摩擦力は時間の経過と共に増加
- 摩擦力の増加にともないロータの回転速度は段々遅くなり停止
- 自転車は慣性の法則により前に進もうとする。ロータも回転しようとする
- ある時点で推進力が摩擦力を上回る
- ロータが回り出す(=摩擦力は減少)
- (3にもどる)
要はブレーキ中にロータは、停止→回転→停止→回転の運動を続けています。この運動が一秒間に数千から数万発生することでディスクブレーキは細かく振動し音を発生させています。この振動はビビリ振動とも言われています
因みに、振動しているパーツはシリンダーボディ(パッド側)です。ロータ側ではありません。シリンダーボディに触れると音が小さくなるので、音の発生源はこのパーツです
理論は理解できました。発生源も分かりました。しかし、この現象、車でもオートバイでも発生しているはずです。さらに、摩擦力が減少と増加を繰り返す周期運動はカンチブレーキでも起きているはずです
でも鳴るのはロードバイクのディスクブレーキだけなんです
バイオリンと松脂(まつやに)

音には波長と振幅があり。波長が長いと低い音になり、振幅が大きいと大きな音になります

バイオリンの弓には松脂(まつやに)が必要で塗らないと音が出ません。そのままでは弓で弦を引いても滑りが良すぎて音がでないのです。そこで弓に松脂を塗ります。松脂の効果は滑り止めです。弓と弦の間に大きな摩擦力が発生します。この大きな摩擦力は大きな振幅を発生させます。大きな振幅の振動はバイオリン本体に伝わり大きな音となります。
ディスクブレーキにも同じことが言えます。ロータやパッドに埃や水分、パーツクリーナー等の油脂が着くと大きな摩擦力が発生します。それまでは小さな振幅で認識できなかった音が、大きな振幅となり音と認識されるようになります。
汚れや歪みによる自励振動
ディスクロータが汚れていてもスティックスリップ現象が起きやすくなります。ゴミが付着している場所をパッドが通過するとき圧力は増減を繰り返します。圧力の変化によりロータは回転と停止を繰り返し振動が発生します。これは、歪んだロータや対抗キャリパーのピストンが平行に動作しない場合も同じ状態になります。
ロータの掃除で音鳴りが止まるのは、ゴミの影響により発生していた摩擦力の増減が一定になる為です
振動数
物体は、個別の振動数を持ちます。その物体が一番振動しやすい揺れです。固有振動数と言われています。
例えば物体にモータなどで発生した振動を与えます。その時の振動数がその物体の固定振動数なら振動は物体の端まで伝わります。固定振動数と異なる場合は振動は減衰し端の方の揺れは小さくなります。また良く言われる共振とは、固定振動数を与え続けたときに振幅が増幅され元の振動より大きくなる現象です。周波数的には、固定振動数=共振振動数です。共振の力は強く金属の機械を破損させることがあります。
ブレーキ時のあの嫌な音は、音量からみて共振が起こっている可能性が高いと思います
開発者は知っている!
あの嫌な音の周波数を測ってみました。1000Hz~3000Hzです。つまりシリンダーボディはこの値で振動しています。鉄の共振周波数は1630Hzです。シリンダーボディに利用されているステンレス成分が不明なため正確な共振周波数は不明ですが、鉄よりは固いことから、2000Hz程度はあると思います。この値からも共振は発生していると見て良いと思います。また、共振周波数にはある程度の帯域があります。固い金属は帯域が広く、柔らかいものは狭くなります。ディスクブレーキが色々な音程で鳴るのはこの帯域のせいです
しかしこれ、根本原因が材質だとするとユーザメンテナンスで解消出来る問題ではありません。えーっと、Shimanoさん知っていますよね?今の製品では根本解決は出来ないって!確かにねロータを洗ったりパッドを変えれば、一時的なスティックスリップ現象の発生は抑えられますよ。でも、どうしたってブレーキダストは出るでしょ。外付けのブレーキなんだから雨天に走れば埃も汚れも付くでしょ!その度にホイール外してメンテナンスは出来ないから、数日間の長距離ライドを考えてみて! 無理でしょ!
それなら最初からカンチブレーキで良いじゃん!このディスクブレーキ用のフレームとホイールどうするの?ホントに・・
オートバイはなぜ鳴らない
独自の調査なので間違いがあるかもしれませんが、音鳴りの仕組みは
- 汚れやロータとパッドの相性によりスティックスリップ現象(振動)が発生
- 振動数が共振の帯域内に入った時に振幅が大きくなり音が鳴る
これが原因ならば、オートバイのディスクブレーキでも鳴るはずです。しかし、私のオートバイは鳴っていない。そこでいつもお世話になっているバイク屋さんに聞いてみました。昔は良く鳴いたので色々な対処方法があったそうですが、最近は以下のどちらかの方法で対応出来るそうです
- パッドとロータのどちらかを変更する
- シリンダーボディの取付方法を変える
1はスティックスリップ現象の発生を抑える方法です。パッドやロータが減っていたら交換。皆大好きなBremboキャリパーなどはロータとの相性も判明していて相性の悪いものは交換することで対処できるようです
2は、シリンダーボディをフロントサスにがっちり付ける事でシリンダーボディ自身が揺れない様にする事です。つまり振幅を抑えます。例えば、ディスクブレーキが取り付けられているステーを強固な物に交換し、ボルドをチタン製に変え締め付けトルクを増す事で、単体で振動出来なくなり音鳴りが止む様です
軽さが命のロードバイクで2の対応は難しいかもしれませんが、早く良い方法を見つけて欲しいと思います。開発者の方頑張って恒久的な方法を探してください。応援しています
メンテナス方法
根本解決は出来ませんが、現状分かっているメンテナンス方法と理由を記載します
- ディスクローターの洗浄
ロータのゴミを取ることで摩擦力の増減を無くしスティックスリップ現象の発生を抑制します - パッドの交換
汚れているバッドや凹凸があるパッドは鳴きます。やすりで整える方法もありますが交換した方が早いです。パーツクリーナーもダメです - ディクスブレーキの取付位置調整
ロータとパッドが平行に設置されていないとパッドに凹凸が出来て鳴きます - ロータの交換
転倒や衝突なのでロータを曲がった場合は交換です。戻せません - ディクスブレーキの交換
対抗キャリパーで左右のピストン均等に動かない場合も交換です。(内部のエアー噛の場合もある)
激坂に行かない私はカンチブレーキで良かったと思う・・・・しかし、もう戻れない。戻るにはフレームとホイールの買換えが必要に・・・それこそ、買換え費でスズキ・ジムニーが新車で買えてしまう