以前、油圧ディスクブレーキについて良い商品であるがメンテナンスに高度な技術が必要と記載しました。今回はディスクブレーキメンテナンスで厄介と言われている「ディスクブレーキの音鳴り」について記載します。
耳に残る嫌な音です。信号待ちで止まると注目を浴びます。集団で走るレースやライドで鳴くと白い目で見られます。想像以上に大きな音がします。概ねロータの掃除やパッドの交換で直ります。しかし、多くの場合再発します。中々抜け出せない不具合です。一方でこの不具合に遭わない人もいます。不思議な現象です。
この不具合の根本解決方法を求め沢山の方が調べていると思います。私もそんな一人です。今回はこの件について調査した情報を備忘録を兼ねて記載します。
自転車だけが鳴る
昔は自動車もバイクも鳴っていましたが今の公道でこの音を聞くことはなくなりました。これは関係者の試行錯誤と努力の結果です。原因が複数あった事で解決が難しく解決までには長い時間がかかりましたが、現在では自動車やバイクのディスクブレーキ音を耳にすることは無くなりました。因みに、レース場に行けば今でも聞くことが出来ます。これは限界領域で稼働するレースでは性能重視され音鳴りに対する対策が後手に回っている為だと思います。何はともあれ自動車やバイクで発生する音鳴りは解消方法が概ね確立しています。
ロードバイクにおいてディスクブレーキが利用されたのは、2018年です。この年の7月1日にロードレースでのディスクブレーキが正式に全面解禁されています。これを機に一般ユーザにもディスクブレーキが利用される様になったはずです。あれから8年たった今でもロードバイクは鳴り続けています。自動車やバイクの試行錯誤のノウハウがフィードバックされているにも関わらす、何故かロードバイクだけ鳴り続けています
自励振動
音鳴りの原因は、ディスクブレーキで自励振動(じれいしんどう)と言われています。発生メカニズムが難しい為、基本原理についてwikiさんの説明を引用します
自励振動を発生させる基本原理は以下の3つ
- 非振動的エネルギが与えられる場にあること
- 非振動エネルギを励振力に変える機構・特性を系が有していること
- 初期外乱が与えられること
難しくて良く分かりません。しかし同様の事象として「黒板とチョーク」と「バイオリンの弦と弓」があります。なんとなく共通点がある様に感じます。
スティックスリップ現象
自励振動現象は、更に細かい現象に分かれディスクブレーキの音鳴りはスティックスリップ現象に分類されています。自励振動現象の中のスティックスリップ現象です。英語版wikiさんより
接触している物体が互いに滑り合うことによって示される運動の一種。これらの物体の運動は通常、完全に滑らかではなく、むしろ不規則で、短時間の加速(スリップ)が停止(ストップ)によって中断されます。この運動は通常、摩擦と関連しており、滑り合っている物体を振動(ノイズ)させる
この現象をディクスブレーキに置き換えると、ブレーキ中にロータは、停止→回転→停止→回転の運動を続けています。この運動が一秒間に数千から数万発生することでディスクブレーキは細かく振動し音を発生させています。この振動はビビリ振動とも言われています
因みに、振動しているパーツはシリンダーボディ(パッド側)です。ロータ側ではありません。シリンダーボディに触れると音が小さくなるので、音の発生源はこのパーツです
現象は理解できました。発生源も分かりました。しかし、この現象、自動車でもバイクでも発生しているはずです。さらに、摩擦力が減少と増加を繰り返す周期運動はディスクブレーキ以外のブレーキシステム、例えばキャリパーブレーキでも起きているはずです
でも鳴るのはロードバイクのディスクブレーキだけなんです
バイオリンと松脂(まつやに)

音には波長と振幅があり。波長が長いと低い音になり、振幅が大きいと大きな音になります

バイオリンの弓には松脂(まつやに)が必要で塗らないと音が出ません。そのままでは弓で弦を引いても滑りが良すぎて音がでないのです。そこで弓に松脂を塗ります。松脂の効果は滑り止めです。弓と弦の間に大きな摩擦力が発生します。この大きな摩擦力は大きな振幅(山と谷)を発生させます。大きな振幅の振動はバイオリン本体に伝わり大きな音となります。
ディスクブレーキにも同じことが言えます。ロータやパッドに埃や水分、パーツクリーナー等が着くと大きな摩擦力が発生します。それまでは小さな振幅で認識できなかった音が、大きな振幅となり音と認識されるようになります。
ロードバイクでもローターの掃除により音鳴りが止まると言われますが、これはそもそも音が鳴らないギリギリの状態であったと言えます。掃除でゴミが落ちて振幅が小さくなっただけです。根本的な解決ではありません。
開発者は知っている!
あの嫌な音の周波数を測ってみました。最近のアプリは音の周波数も計測出来ます。結果は1000Hz~3000Hzです。因みにステンレスの共振周波数は2000Hz前後です。共振周波数とは、その物質が効率良く振動する周波数で、その振動が外部から与えられると元の振幅より大きな振幅が発生しる現象のことを言います。共振周波数は、材質や大きなによっても異なってきますが、2つの値から推測しても共振が起こっている可能性は高いと思われます。
しかしこれ、根本原因が共振だとするとユーザ作業で解消出来る問題ではありません。えーっと、Shimanoさん知っていますよね?根本解決は出来ないって!
でも自動車やバイクは鳴らない・・・
オートバイの対応
私のバイクは30年前の旧車といわれる時代のバイクです。私のオートバイも鳴っていません。そこでいつもお世話になっているバイク屋さんに聞いてみました。昔は良く鳴いたので色々な対処方法があったそうですが、最近は以下のどちらかの方法で対応出来るそうです
- パッドとロータのどちらかを変更する
- シリンダーボディの取付方法を変える
1はスティックスリップ現象の発生を抑える方法です。相性から振動が発生しています。皆大好きBremboキャリパーなどは相性の情報が拡散されているようです。相性の悪いものは良いものに交換することで対処できるようです
2は、共振周波数を変える方法です。シリンダーボディをフロントサスにがっちり付ける事で振動する質量が変わり共振周波数を変えています。具体的な対策はディスクブレーキが取り付けられているステーを2点止めから4点止めなどの強固なパーツに交換する。またはチタンボルトに変更し締め付けトルクを増すことです。これによりシリンダーボディが単体で振動する事が出来なくなります
1は関係者の努力と試行錯誤により時間と共に解決していくと思います。難しいのは2です。今のロードバイクは「軽さが正義」です。取付ステーの増量などの対応は論外ですし、軽いカーボンフレームにチタンボルトでがっちり付けても振動部分の質量は殆ど変わらないと思われます。
どうやらこの辺りが自動車やバイクでは解消できてもロードバイクでは解消出来ない理由だと思われます
因みにリムブレーキの鳴きは、「汚れ」と「取り付け角度」が原因です。ブレーキシューの取付角度がリムと平行だと鳴き易くトーインを付けてやると鳴き止みます。擦り減ったブレーキシューで鳴くのはシューが削れて平行になったことが原因です。ディスクブレーキにトーインの概念はありません。この辺りも鳴きやまない原因の一つからもしれません
DIYで出来ること
根本解決は出来ませんが、現状分かっている対応方法と理由を記載します
- 購入前に相性情報をチェックする
- ディスクローターの洗浄
- ディクスブレーキの取付位置調整
- パッドやローターの交換
- シリンダーボディの取付方法を変えてみる
後は、開発者の努力に期待するしかありません

