大雄山最乗寺(道了尊)初詣

2025年元旦初詣に行き極寒を体験しました

子供の頃、NHKの紅白歌合戦が終わってから父と最乗寺道了尊に初詣に行くのは恒例行事でした。最乗寺道了尊とは600年の歴史を持つ天狗伝説があるお寺でお坊さんが修行をする場所です。場所も交通手段も乏しい山の中にあり、一般の方が行くのは初詣や厄払いがほとんど平日はひっそりとしています。それでも30年前の元旦は、お賽銭を投げる位置まで近寄ることも大変なほど混雑していました

私が大学生に進学し、卒業し就職、そして結婚。父と一緒に行くこともなくなり30年が過ぎています。元旦には間に合わないものの時間を見つけては一人で御札(おふだ)を貰いにいっていました。父も無くなり世代が私に替わりました。仕事もひと段落した今年、昔の様に元旦の0時過ぎに初詣に行ってみました

現地について最初に感じた違和感は出店が少ない事です。活気がない。人も少ない。平日の様な感じです。それこそ警備の人の方が多いぐらい。なぜ?今日は本当に元旦?日付を間違えた?そんな疑問が湧いてくるほど静かでした

「元旦特別祈祷の御札(おふだ)をお願います」受付のお坊さんにお願いします。特別祈祷はお坊さんの御祈祷に本人が立ち会える嬉しいサービスです。御利益が増す様に感じます。すると僧侶さんより「特別祈祷は朝6:00からです」との回答に、えっ・・なんで?いつからそんなスケジュールに?今1時だから5時間後?この気温の中は凍死しない?いや無理です。絶望がよぎる中状況を整理します

  • 最初の祈祷は朝6:00。つまり5時間後
  • 現在の気温は3度。明け方は多分氷点下
  • ここは山の中。休憩できるお店は無い
  • 暖が取れなければ凍死する?
  • 選択肢は2つ。暖を取れる場所を見つけ待機するか、下の町まで戻る

出来れば町まで戻りたくない。非効率すぎます。とりあえず辺りを詮索します。既に出店も閉まっています。すれ違う人は登山者ばかり。寒さと静けさが体に浸み込んで来ます。本気でやばいです。早く決断しないとHPが0になります・・と、そんな時、渡り廊下の一角にストーブを発見!「よっしゃ!これで暖がとれる。」思わず心のなかで叫びました。正月から縁起が良い。今年は付いています!

この発見が悲劇の始まりとも知らずに。この時はストーブを発見出来た自分を誇っていました。アホでした

ストーブに当たり出して最初に感じたことは「暖かくない」事です。渡り廊下には風の通り道があり一定方向に空気が動いています。微風が絶えず吹いている感じです。そのため廊下全体が温まることは無く、ストーブに面した部分だけがゆっくりと温まります。前面が温まってくると反対に背中は冷えて行きます。背中の冷たさに限界を感じて体を反転させます。まだ前面は十分に温まっていません。でも反転するしかありません。背中を向けると今度は顔が冷えてきます。風が直接当たる顔は直ぐに冷えてきます。暫くすると寒さで痛みも出てきます。手で口元を囲いますがデカい顔と手がどんどん冷えてきます。限界がきてまた反転します。こうして回転をくりかえしながら少しづつ体力が奪われていきます。ただ早く時間が経つことを願いながら過ごしていました

次は生理現象です。大晦日の夜に飲んだお酒が水分となり尿意が発生します。でも動きたくありません。この場を離れたくありません。折角確保した場所を取れらるかもしれません。離れれば体が冷えます。しかしまだ午前2時、6時までは保ちません。意を決してトイレを探しに離れます。運良く近場に発見します。しかし、お寺の男性用トイレに扉などありません。零下です。用を足すだけで体中が冷え切ります。出るものも出ないぐらい寒いです。用を足して生理現象からは逃れましたが体は完全に冷え切っています。特に下半身が異常に冷たくなっています。霜焼けになりそうです

トイレから戻ってもストーブに当たれる場所を確保することができました。一安心です。暫くするとちょっとした変化が起きます。一緒に暖をとっていた登山者の人達が動きだします。時間は午前3時半。どうやら初日の出を見に山頂へ向かうようです。一人減り、二人減り、ストーブの周りの人が段々減ってきます。30分後にはついに私一人になっていました。人垣がなくなり風の勢いが増します。寒さも増します。気温はどんどん下がっていきます。後2時間半。どうやらここからが本番の様です

ストーブを独占出来る様になり自由な位置で自由に体制を取れる様になりました。しかし寒さは倍増です。体を押さえても小刻みに震えています。これは本当にまずいかもしれない。あの時、下の町に降りていればこんな思いをせずに済んだのに・・そんな後悔が生まれます。しかし今から下の町に降りる時間はありません。耐えるしかありません

4時を過ぎたころ強烈な眠気が襲ってきます。震える寒さのなかで眠気を感じたのは人生で初めてです。眠気で椅子から何度も落ちそうなります。辺りに人は居ません。一人です。ここで寝たら死ぬ?良くない考えが頭に浮かびます。冗談は抜きにしても元旦に御札(おふだ)を貰いに来て凍死はダメです。お寺にも迷惑がかかります。守らなければいけない家族もいます。ここで死ぬわけにはいきません

眠らない様に色々な事をします。素数も数えましたがダメでした。3桁の素数はダメです。大学教授の授業の様に眠りを誘います。携帯電話で時間を潰せれば一番良いのですが、既にバッテリー残量は10%以下。帰りのPayPayやSuica利用を考えるとこれ以上は使えません。体を動かせれば良いのですが、残り2時間も運動し続ける元気はありません。汗をかいてもNGです。汗が冷えたら逝ってしまいそうです

もう楽しいことを考えることにします。ここでは書けないような色々な事を妄想します。考えるだけなら犯罪になりません。しかし、既に頭の中は現実と妄想の区別がついていません。朦朧としています。捕まらない範囲の中で楽しいことを色々考えます。その時の私は一人でニタニタ笑ったり、困ったり、怒ったりしていました。誰かに見られたらきっと変質者と言われています。この時間帯は本当に危なかったです

私の妄想力が功をそうして、残りの2時間を乗り切りました。無事に御祈祷に立ち会い御札(おふだ)も頂くこともできました。新年早々色々ありましたが何とか無事に帰宅出来ました。元旦から頑張った自分を褒めながらの帰宅です。家について、妻に「死にそうになったが変質者に成りきって事なきを得た」と話すと一言

「一度帰ってくれば良いのに・・・・」

御もっともです。本当にその通りです。来年から初詣はお昼から行くことにします