ロードバイクのブレーキ性能について雑誌では色々な切り口で評価されていますが、一番の評価基準は引きの軽さです。勿論止まる事が前提ですが、小さな力で止まるブレーキが優秀なブレーキです。カンチブレーキやVブレーキのレバーを手が腱鞘炎になるほど握りしめた体験がある人なら同意出来ると思います
雑誌や、有識者のWEBサイトには、Vブレーキ、カンチブレーキ、ディスクブレーキの比較を、制動距離、急制動時のロック、タイヤ幅等色々な切り口で評価しています。しかし、時速30㎞から40㎞で走るホビーライダーにこれらの評価にあまり意味はありません。まず、晴れた日に時速30kmでアスファルト上を走行している状態から強くブレーキを掛けてタイヤをロックさせる事は至難の業です。制動距離についても大きな差はありません。また利用出来るタイヤ幅についても大きな差異はなく概ねタイヤ幅28mmまでは入ります。唯一の違いであり最大のメリットは、ディスクブレーキだけは油圧を利用することでブレーキの引きを軽く出来ることです
油圧ディスクブレーキが最強
引きの軽さ追及するとワイヤー方式は油圧方式に勝てません。曲がりくねったアウターケーブルの中をインナーケーブルが動くとき、大きな摩擦が発生します。この摩擦がレバーを握ったときの力を減少させます。一方、油圧方式では摩擦が発生しません。レバーを引いた力がそのままブレーキに伝わります。これが軽さの違いです。つまり、ブレーキの良し悪しは、油圧を採用できるかどうかで、ブレーキ自身の構造には関係ないのです。仮にカンチブレーキの油圧式が開発されていれば、カンチブレーキの方が優秀と評価される可能性もあったと思います
ディスクブレーキのもう一つのメリットとしてコントロール性能があります。例えば700cのロードバイクで時速40kmで走っているとき、カンチブレーキのブレーキシューが接触するリム面(ブレーキ面)は時速39kmで動いています。一方ディクスローターのブレーキ面は時速10kmです。中心からの距離(直径)が短いディスクブレーキの方がゆっくり動きます。この速度差4倍が減速しやすさ、コントロール性能に影響します。ブレーキ面の移動速度は遅ければ遅いほどコントロールしやすくなります。この違いによりディスクブレーキのコントロール性能は優れていると言えます。しかし、これもホビーライダーには性能を判断する材料にはなりません。これが時速80kmでウェット路面であれば、コントロール性能は重要です。プロがダウンヒルを行う時には大きなアドバンテージとなります。しかし時速40kmでドライ路面を走るホビーライダーには感じることは出来ません。また、雑誌の記事で、「ディスクブレーキは雨天での制動距離が短い」ことが掲載されていますが、多くの人は雨の日にロードバイクに乗らないので長所には成りません。つまりブレーキとして油圧ディスクブレーキが最高であるがロングライドを楽しむ人にとっては必要なパーツではありません。
機械式ディスクブレーキの問題
世の中には機械式ディスクブレーキがあります。油圧ではなくワイヤーでブレーキを稼働される構造です。私は、この製品が好きではありません。構造的にNGだと思っています。理由は2つあります。1つはワイヤー自身です。インナーケーブルの劣化は突然です。錆やほつれ、コーティング剤の剥がれなど、走行中にも発生します。対処方法は定期的な交換しかありません。また全ブレーキシステムの中で一番長いワイヤーを必要とするブレーキです。さらにアウターケーブルの取り回し(配線)については大きな問題があり後輪の配線はBBからチェーンステーに沿って上に昇っていく配線になります。これは高確率で水没します。ディスクブレーキに繋ぐ直前で湾曲させていることにも疑問を感じます。最先端技術のディスクブレーキシステムを採用しても、諸悪の根源であるワイヤーを一番長く利用し湾曲させている構造を認めることは出来ません。もう一つの理由は、片押しキャリパーである事です。機械式ディスクブレーキは構造上対向型を作ることが出来ません。片押しはローターとパッドの調整が難しくなり以下の事象が発生します

- ローターと固定パッドの間隔を出来る限り狭く設定する
- パッドは両方削れて行くので、定期的にローターの位置を調整する
対向キャリパーではこの様な必要はありませんが、片押しは常にローターが湾曲するため固定パッドとの間隔が重要になってきます。因みにこの作業を怠るとローターが歪み、音鳴りの原因となります。
つまり、余程の理由が無い限りディスクブレーキなら油圧を選択すべきです
ディスクブレーキの本当のメリット
これは、ホイール設計の自由度が上がることです。本来ホイールに求められる機能は、小さな力で速く走ることです。しかしカンチブレーキでは、頑丈である事と熱に強いことが条件として追加されてしまいます。この2つは質量を増やすことで解決出来ますが、質量を増やすことは遅くなることです。ディスクブレーキはこのジレンマを解決します。
ホイールが本来すべき機能に特化することが出来ます。これが最大のメリットです。リムを極限まで軽く薄く出来るのです。ディスクブレーキ化によりスポークの数は増えますが、それ以上にリムが軽くなることには大きなメリットがあります。
また、リムが削れないことをメリットに上げる人もいますが、この意見には懐疑的です。そもそもカーボンホイールの寿命は3年から5年ぐらいです。理由の多くは振れが出ることです。リムが削れて寿命となる人は殆どいないと思います。最近の高級カーボンホイールはDIYで振れ取りが出来ません。ネットで購入している場合にはショップに依頼することも出来ません。そうなると多くの人は新しいホイールを購入します。この状態になるため、ディスクブレーキのメリットと定義するには問題があると思っています
油圧ディスクブレーキのデメリット
最後に油圧ディスクブレーキのデメリットを記載します。重量の増加、輪行不向き、価格、色々ありますが、これらは小さな問題です。一番の問題はユーザメンテナンスに高いスキルが必要になる事です。油圧ディスクブレーキはワイヤーを利用しない為、カンチブレーキに比べて日々のメンテナンスは少なくなります。だたし、一度問題が発生してしまうと素人には修理が難しいブレーキです。ブレーキフルード管理、パッド交換、クリアランス調整、エアー噛み、パッドの音鳴り等、これらの修理は総じてカンチブレーキに比べて難しい作業になります。音鳴り一つとっても、複数の原因があり最終的にはクリアランス0.5㎜以下の戦いになります。技術は慣れです。実施回数です。沢山の作業を実施すれば技術力は上がりますが、一般ライダーがDIYで行うディスクブレーキのメンテナンス作業は2年に一回程度です。技術の向上が難しい頻度です
また、車の場合は、技術力を担保するために国土交通省が「自動車整備士技能検定」制度があり素人が他人の車を修理出来ない様にしています。しかし自転車には資格がありません(自転車技士は民間資格)。昨日から働いている店員さんもお客様の自転車を整備することが出来ます。よくよく考えると怖いことです
飛行機輪行を多用する私には、油圧ディスクブレーキのメンテナンスが大きなデメリットになります。結局、悩んだ挙句カンチブレーキで空港へ行くことが多くなっています。過去の経験になりますが、100キロのライド中、ディスクブレーキの悲鳴音(音鳴り)を聞き続けるのは堪えられませんでした
結論、油圧ディスクブレーキは軽くて良く効く最強のブレーキシステム。ただし、自分でメンテナンス出来ない人、輪行多用者は止めておいた方が無難。最終的に後悔する。レースに出る人には必須装備。頑張って技術を磨こう